三井寺の門たたかばやけふの月

元禄4年の八月十五夜、中秋の名月の日に、木曽塚の無明庵で月見の句会が盛大に催されます。
歌詠みにとって、旧暦八月といえば、月の歌のみ詠み、月のみ心にかけたといわれるほどの句会は盛り上がり、風狂は尽くされます。
興が至って、一同は琵琶湖に舟を漕ぎ出し、舟上の芭蕉が月光に眺める三井寺を望んで詠んだ句が、「三井寺の門たたかばやけふの月」でした。今日の名月を、さあ、みんな、三井寺の門をたたいて、修行の僧たちに教えてあげなきゃ、と、さほど強くない酒に酔った芭蕉の、少し浮かれた姿が、目に浮かびます。
この句は、中国・唐の詩人、賈島の詩句
「鳥ハ宿ル池辺ノ樹 僧ハ敲ク月下ノ門」を踏むとされています。
古い中国の僧が月下にたたいたという門を、同じように私たちもたたこうという意を含ませたものです。

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